シャルトーニュ・タイエ ブリュット・キュヴェ・フィアクル NV
既に9世紀の文献に登場するシャンパーニュで最も古い畑のひとつ「ル・シュマン・デ・ランス」と樹齢55年の区画「レ・ゾリゾー」というメルフィの砂質系土壌の畑のブドウを用いた特別キュヴェ。特に素晴らしい年にしか生産されず、またフリーラン果汁のみを使用する贅沢な造りです。完熟リンゴ、ハチミツ、ブリオッシュの繊細かつ華やかな香り。フィネスと深みに富む極上のシャンパーニュ。
ドザージュ:6g/L
熟成:5年以上
【テイスティング・コメント】
黄金がかった淡いイエロー。持続性のあるクリーミーな泡立ち。香りにはリンゴや枇杷、白桃、洋梨のコンポート、白や黄色い花のアロマ。洗練されたミネラルのノートに、魅惑的な蜂蜜のニュアンス。加えてバニラや生クリーム、ビスケット、ブリオッシュ、控えめな酵母の香りが複雑性を与える。繊細かつ上品な芳香。口に含むと、スムーズな発泡が心地よいなめらかな口当たりで、ミネラルを伴い、純粋にして濃厚な果実感で満たされる。美しさは「照り」だけに留まらず、味わいから余韻にまで表れる。透明感のあるピュアな果実の旨み、バックボーンとなる洗練されたミネラル、凛とした爽やかな酸味が絶妙のハーモニーを奏で、フィネスと深みを備える。喉越しはドライに仕上がっており、長く優美な余韻へと続く。煌びやかで限りなくエレガントなシャンパーニュ。至福のひと時にゆっくりと向き合ってお楽しみを。
※ 2015年12月試飲
■シャルトーニュ・タイエ
1683年にブドウ栽培家として創業、1960年代にシャンパーニュ造りを開始したシャルトーニュ・タイエは家族経営のレコルタン・マニピュランです。樹齢の高い区画を尊重し、収量を制限。収穫時には厳密な選果を行い、区画ごとに醸造を行うなどテロワールを尊重したワイン造りにより、質の高いシャンパーニュを生みだしています。
シャルトーニュ・タイエが位置するのはランスの北西に位置するメルフィという小さな村。今でこそ知名度は低いですが、18世紀にはヴェルズネイやアイなど現在のグラン・クリュの村と同等の最高ランクの価格でブドウが取引されていたという歴史を持つクオリティの土地です。砂質をベースとした土壌のおかげでフィロキセラからの被害もそれほど大きくなかったのですが、ランスの街やモンターニュ・ド・ランスの村々を一望できる高台にあることから20世紀の2回の世界大戦では戦略的要地となり、ブドウ畑は徹底的に破壊されました。1950年代にようやく畑が再建され始めましたが、その頃にはかつての栄光とワイン造りがすっかり失われてしまいました。
しかし、蔵の新しい時代を担うアレクサンドル・シャルトーニュはメルフィのシャンパーニュの力を取り戻そうとしています。彼が考えるこの地の利点は『土壌の多様性』。過去に同等評価されていたグラン・クリュの村の土壌がほぼ粘土とチョークで構成されているのに対し、メルフィは砂質を主体に海抜によって砂岩、粘土、石灰と様々なタイプの土壌が混ざり合い、チョークの下層土を厚く覆っています。クオリティに関する歴史的根拠が確かで、同じ村でもブルゴーニュのように区画ごとのテロワールがこれほど多様な土地は滅多にありません。アヴィーズのジャック・セロスという偉大な土地の偉大な生産者の下で修業を積んだアレクサンドルはこの優位性を実感し、2006年に蔵に戻ると先代以上にメルフィのテロワールを表現したシャンパーニュ造りに取り組みました。
テロワールへのこだわりと細やかな土壌分析
彼が真っ先に行ったのは除草剤の使用を止めることでした。土壌は空気や光よりもブドウの樹に多くの要素をもたらすといいます。セロスで学んだことは「ブドウの根をまっすぐ伸ばす方法」と「自然環境を尊重したワイン造り」であると語る彼にとって、畑表面の草だけでなく土中の微生物まで殺して土を不活性化させ、ブドウの樹がまっすぐではなく横方向に根を広げてしまう環境を作り出す除草剤は無用のものでした。
その代わり手間はかかるが、野草を取り除き畑に空気を含ませるために畑を鋤き耕しています。畑に負荷をかけないように、耕作用に馬を飼い、最新の物よりも重量が軽い年代物のトラクターも購入し、馬や機械が入れないほど樹間の狭い畑は人の手で耕すという念の入れようです。また土壌の多様性を詳細に把握するために、セロスと同じく土壌の専門家クロード・ブルギニヨンに土壌分析を依頼。乱暴にいえばどの畑にどんな品種を植えても育つので、多くの栽培家が土壌と品種の適合性まで考えない中、土壌の組成と品種との相性を知ることで新たな植樹の助けとしています。
さらにアレクサンドルは先人の経験と記録にもヒントを求めました。ヴィンテージの出来やブドウの取引について18世紀の初めから代々絶えることなく綴られていたシャルトーニュ・タイエの家長の日記から優れた畑を割り出し、古い文献から昔のメルフィではブドウの樹1本につき4房までしか実をつけさせなかったことを知り、現在では普通20房もの実を得るところを最大でもその半分以下に収量を抑えました。自根で密植されていた当時のスタイルの畑も復活させました。他にも日当たりを良くしてブドウの熟度と糖度をあげるため、他の生産者の畑より30cm長くブドウの枝を切ったり、ベースワインの発酵には畑の土壌によってステンレスタンク、タマゴ型のコンクリートタンク、バリックを使い分けるなど様々な工夫を凝らしています。
細かな違いがひとつひとつ積み重ねられた彼のワインは、先代の頃に増してミネラル感豊かで土地のエネルギーに溢れています。テロワールの追求の集大成ともいえる単一畑のシャンパーニュは国内外の評価誌から大きな関心を集めており、1983年生まれの探究心の塊のようなこの若者に世界中から熱い注目が注がれています。