ラ・プス・ドール シャンボール・ミュジニー 2012
テイスティング・コメント
艶のあるルビー、エッジにほんのり朱色が混ざる。粘性は中程度より高め。香りにはラズベリーやダークチェリー、プルーンなどの果実香に、スミレ、オリーブ、スパイシーかつスモーキーなオークのノートがアクセント。上品なバニラ、クローブやシナモンのニュアンスがふわりと香り、さらにトリュフ、腐葉土、森の下草、ジビエなどの熟成香があらわれる。口に含むと、しなやかでシルキーなテクスチャー。華やかな香味が瞬く間に広がり、ミネラルと上品な酸が美しいまでのバランスを保っている。丸みを帯びつつ伸びやかで、辛口ながら仄かに甘味すら覚える。繊細ながらも凝縮感があり、近づきやすくもエレガントに仕上がっている。アフターの余韻の長さも秀逸。合わせるお料理は、牛や仔羊、鴨肉のロースト、鴨鍋、鶏肉の治部煮、茸料理、白身魚の天ぷらなど。
2018年11月試飲
ラ・プス・ドール
かつてロマネ・コンティのオーナーであったデュヴォー・ブロシェ家の所有地の一部が、ドメーヌ・ド・ラ・プス・ドール。
1964年、投資家たちにより再構築され、その時に醸造長となったのがジェラール・ポテルでした。やがて、ポテルが株式の半分を取得し、もう半分をオーストラリアの投資家たちが所有していましたが、1997年にポテルが急死。ドメーヌは売りに出され、これを購入したのが現オーナーのパトリック・ランダンジェです。
彼は医療機械、とくに整形外科のビジネスで成功した人物ですが、ヴォーヌ・ロマネに別荘をもっており、いつかは畑を買い、この別荘をドメーヌにしたいと夢想していました。そんな折、プス・ドール売却の話を耳にしたといいます。手に入れるや否や、200万~300万ユーロの資金を投じて、醸造施設や発酵用の木桶、他の設備も一新。1999年に完成した醸造施設は6層構造になっており、収穫から醸造、樽熟成、瓶詰めまで、ポンプを一切使わず重力でブドウ果汁やワインが流れる仕組みになっています。
ランダンジェが投資したのは設備だけに止まらず、ブドウ畑の拡張も盛んに行われています。1998年にコルトン・クロ・デュ・ロワ(1.45ha)とコルトン・ブレッサンド(0.48ha)を手に入れ、2004年にピュリニー・モンラッシェ1級カイユレ(0.73ha)。そして2008年にはシャンボール・ミュジニーのドメーヌ・モワンヌ・ユドロを買い取り、村名シャンボール・ミュジニー(1.41ha)、1級のグロゼイユ(0.52ha)、フースロット(0.42ha)、シャルム(0.19ha)、レ・ザムルーズ(0.20ha)、そして特級ボンヌ・マール(0.17ha)をラインナップに収めています。(2009年にサントネイ1級のグラヴィエールは売却)
ブドウ栽培はビオロジック農法を実践。赤ワインの醸造では木桶とステンレスタンクを併用し、7日間の低温マセレーションの後、日に2回のピジャージュをしながら長いキュヴェゾンを施します。樽熟成は1級で1/3、特級で40%前後。トータルで15ヶ月間です。また白ワインは圧搾後、24時間のデブルバージュを経て、樽発酵、樽熟成。ただしただの小樽ではなく350リットルの中樽を用いています。新樽比率は50%。
ドメーヌ・ド・ラ・プス・ドールのワインはピュアで洗練されています。果実味、酸、そしてタンニン、それぞれの要素が高次元でバランスよくまとまり、若いうちから十分に楽しめ、熟成にも耐え得るスタイルです。とくにブルゴーニュ大公家が所有し、その後フランス王家のものとなったとされる、このドメーヌのモノポール「クロ・ド・ラ・ブス・ドール」は、力強さとエレガンスのせめぎ合いが面白いワインです。
さまざまなアペラシオンが増えたとはいえ、ヴォルネイを語る上で欠くべからざるドメーヌのひとつです。